【はじめに】ももいろクローバーZ 「アメリカ横断ウルトラライブ」感想(1/4)

さる4月2日、ももクロはドームトレック2016千秋楽の西武ドームday1で、ハワイ、ロサンゼルス、ニューヨーク三箇所によるアメリカツアーを今年11月に行うと発表した。
この発表を西武ドームで聞いたとき、「あー、ついに来たな」と思った。

元々こういうツイートをしていた。

ももクロはよく知られるとおり、2010年冬に日本青年館で単独ライブを行って以降、回を重ねるごとに動員数を倍に倍に増やしていった。
そのピークは2014年夏、日本最大の会場である日産スタジアムを2日間使用したことで迎える。
(動員数の倍々ゲームにおいて、よく国立競技場が一つの到達点と見られるが、単純に量の観点から見れば、決定的な楔が打ち込まれたのは国立の次に行われた日産スタジアム2daysなはずだ)

これ以上の大きなキャパは用意できない。
GLAYの20万人ライブのように広大なサラ地を野外会場にするような力技を行えば話は別だろうが、それは設備構築の予算がちょっとした街づくり並みに膨れ上がり、どれだけ動員しても破壊的な赤字を避けられないため、多くのアーティストたちにとって現実的な手段ではない。

首都圏にある万単位の会場をグルグル使い回し、人気の上昇に合わせて開催日数を増やしていくという方法もなくはない。
しかし、2015年からは、むしろ会場のアクセス性によってキャパ問題を調整するということが行われてきた(と思っている)。
つまり遠い会場、行きにくい会場を選ぶことによって、購入のニーズを抑えさせるという手法である。

以上のように書くと聞こえは悪いが、遠くてもなお本当に見たいと思う人にチケットが行き渡るよう苦肉の配慮がされたということだ。
また、(もっとも効果的なロケーションである)関東圏を中心に人気を確立したももクロが、次は地方の人たちに会いに行くという極めて正当的な順序を踏んでいるとも言える。

地方による大型ライブを順に書くと、

■2015年春 福岡ヤフオクドーム
→初の関東外のドームコンサート。
福岡空港および博多駅からのアクセスはよく、博多という土地柄、ホテルも潤沢にある。
食べ物も美味しい。
中洲の風俗で一発抜けることを付随的な喜びと取るファンも散見された(できれば、ももクロのライブを見た後、よしっ、ライブも終わったし一発抜くか〜とか思わないでほしい)
これはまだ遠征慣れしていないファンたちへのスターターキットだったと後に気づく。

■2015年夏 静岡エコパスタジアム
→関東に近づいたが、5万人キャパの会場の最寄りが田舎駅のため、行き帰りの混雑は群衆事故が起きてもおかしくないレベルになった。
飲食店やホテルも遠くに分散して確保しないといけない。
「確かにスタジアムだけど、ちょっと」と誰もが思うロケーションだが、百田夏菜子が開催前のインタビューで屈託なく「私だっていつも静岡から通ってるから、みんなもたまには静岡に来てほしい」という一言で、問題は綺麗に無化された。

■2015年冬 軽井沢スノーパーク
→長野は関東の隣県だが、「山の中でやる」という角度から攻めてきた。
電車だけでなく、シャトルバスに乗り継ぐ必要がある。
それほど大繁盛を想定していないスキー場に、移民級の人数を招き入れる。
細い山道を何千人もシャトルバスでピストン輸送するため、レギュレーションやフローが複雑化した。
何より寒い。
俺を含め、スノーウェアを持ち合わせていない人たちは一式を買い揃える必要がある。
このあたりから、徐々に遠征慣れしてきた人たちに「チケット代は全予算のうち誤差の範囲内」というコンセンサスが確立していく。

■ドームトレック2016
ナゴヤドーム
◎札幌ドーム
◎京セラドーム
福岡ヤフオクドーム
西武ドーム

一つ一つの会場は、該当地域の都市部からのアクセスに優れ、中パンチ程度の威力しか持たない。
しかし、それを2ヶ月間に5回繰り返すという波状攻撃へとシフトした。
質ではなく量の攻め方になっている。
同時に、このツアーによって未踏だった地方のスタジアム・ドームたちに、おおかた「済」のスタンプが押された。

ロケーションの攻め方という点でも、会場の選定においても、アクセス性による調整は「国内でできることはやり尽くした」感がある。
その思いがあり、「ももクロのために海外旅行に行く日は遠くない気がする」とつぶやいた。

遠征地が発表されたときのプライマリーな快楽は、頭の中で預金残高、日々の収支、スケジュール調整の可能な幅を思い描き、

「あー、頑張れば行けるな」

と演算結果が叩き出されたときに、静かにみぞおちあたりから湧いてくる火照りである。
このとき人間は、顔が孫悟空になる。

アメリカツアーの詳細が発表され次第、タスクを書き出した。

・ライブチケットの購入(そもそもこれをクリアしないといかなる計画も立てられない)
・パスポートやESTAの申請
・空路の確保
・宿の確保
・必要な持ち物、情報、その揃え方

Excelに線表を作り、以上のタスクをマイルストーンと矢羽に書き起こした。
また、分単位の旅程表を作成する。

アメリカツアーが発表された時点では、職場では長期休暇を大変取りづらい立場にあった。
自分が成果をアウトプットしさえすれば、出勤日をいじくりやすいバックヤード寄りの職掌に移れるよう社内で画策した。
(まさか同僚たちも急にモチベーションが上がった様子で、キャリアパスを名乗り出た俺を見て、アイドルのライブのためとは思っていなかっただろう)
それらすべての作業が幸せだった。

海外旅行ってこんなにめんどくさいんだ

うわっ、こんなに高くつくんだ

国内旅行の比じゃないわ

へー、なのに下手したら現地の悪者にむしられて死ぬんだ

こうしたハードルの高さ一つひとつを、まるでハチミツを舐めるくまのプーさんのように、甘い愉悦と感受した。

たとえば、演劇の世界において、円熟した実力を持ち合わせているのに全国行脚を禁欲的に行わず、ホームである劇場まで客たちが足を運ばなければ観劇できないようにしている劇団が、まま存在する。
あるいはウィリアム・フォーサイスは、ダンサーが劇場内を飛び出し、客たちがそれを追いかけないと鑑賞できない公演を組んだという。
彼らは自らのパフォーマンスに対し「移動を介さないと感得できないもの」があると考えている。

これを客側の目線に立って言えば、おそらく人間には、労苦を経ないと解放されない感覚野がある。ならば労苦それ自体も作品鑑賞のうちである。
俺にとってももクロアメリカツアーは、ももクロアメリカツアーに行けるようになるための調整をしている時点から始まっていた。

そして、ついに11/15〜19にかけて、ハワイ、ロサンゼルス、ニューヨークの三箇所でライブを見てきた。
この文章は、ニューヨークから東京に帰る18時間フライトを有効活用し、iPhoneでしこしこ書いている。

俺は、アイドルのライブの感想をブログに書くことは相当ダサいというイメージを持っていて(そしておそらくその感覚は正しい)、これまで禁欲的に避けてきた。

しかし、不思議なもので海外を回ってまでして見たものは、何かしら記録をつけたいと思えてくる。
インターネット上に海外旅行ブログというジャンルが確立しているのは、俺がいま憶えているこの下腹部の火照りが人類普遍のものだからだと、この5日間で悟った。

というわけで、ハワイとロサンゼルスとニューヨーク、それぞれのライブの感想を書いていく。

旅行記ではないので、どこの山を登ったとか、どこで死にかけたといったももクロと関係のない話はバッサリ割愛する。

たまにブログを書くたび切に思うことだが、本当に、別に読まれなくてもいい。